こんにちは、曹洞宗の大鐵です。
地蔵院で荷物の点検と基本的な作法の指導を受けて永平寺の山門に到着した13番上山組。
彼らの行く手を待ち構えているのは、一体何か?
緊張と不安を抱きながら、永平寺の山門でお迎えが来るのをじっと立って待つことになるのでした。
永平寺の山門でひたすら待つ
まず、山門についたら順番に山門の脇に掛かっている木版を1人づつ木槌で3度打ちます。
これが到着の合図なのです。
今でいうインターホンですね。
しかし、木版をバンバンと鳴らしても何の反応もありません。
どうやら気付かれてないのでしょうか?
しばらく待てども、なかなか案内してくれる方がなかなか出てきてくれません。
そのまま、われわれ13番上山組は山門の前で3時間待たされることになったのです。
待つのも修行
実はこの門前で待つ時間も修行のひとつなんです。
木版の音が聞こえてないとか、到着に気づかれていないのではありません。
山門前で
修行に入ると1年以上厳しい生活をしなくてはなりません。
365日24時間1分1秒を惜しみ修行する寮生活です。
修行僧の一日は次回話しますが、厳しさのあまり毎年逃げ出すものが後を絶ちません。
本人の修行に対する覚悟がどの程度あるのか試しているのです。
われわれ
それから10時頃まで約3時間放置されました。
昔はもっと長くその倍は放置されたそうですが、今は参拝者を受け入れている事情もあり午前中には迎えに来るのです。
案内係の僧侶が出迎えに到着
さて、10時頃になり
そこで「よう来た。さあ、中に入りなさい。」と笑顔で迎えてくれるわけもなく、まずは修行の覚悟を試すため問答が始まります。
一人づつ質問されていきますが他の人がどんな問答をしたのか聞いてはいません。
わたしは緊張のあまり膝が笑ってしまい立っているのがやっとなくらいでした。
客行和尚「和尚、何しに来た?」
わたし「永平寺に修行に参りました。」
客行和尚「なぜ、永平寺に修行に来た?修行ならどこでもできるだろ。ここでなくともよいだろ。」
わたし「ここでなくては学べないことをしたいからです。」
客行和尚「ここで学べない事とは何か?」
わたし「それを探しに参りました。」
と答えました。
すると、問答は次の人の順番に回りました。
実は上山前に、修行に行っていた先輩からこの問答について教わっていました。
事前に教えてもらっていなければ何も答えられなかったかもしれません。
無事に上山
そして、山門に上げてもらったわれわれ13番上山組は草鞋を脱ぎ、お湯で足を洗い、汚れを落としました。
その時のお湯の温かさは今でも忘れません。
到着所にて上山到着表に名前を記入し、壁に向かって正座しました。
客行和尚「今から、皆さん、永平寺で修行を頑張ってもらうため、励ましの
客行和尚さんがそう言うと、私たちは順番に警策という木製の平たい棒で一撃づつ右肩を打たれました。
音がピシッと鳴り、痛かったですが、「頑張れよ。」という言葉に聞こえました。
しかし、若い時でしたので
「大きなお世話や。」
と思いました。
その後、
新しく上山した修行僧が研修の為入る部屋。
「一旦過ごす寮」と覚えてください。
ここでいわゆる新入社員研修のようなものを受け、約1週間、徹底的に永平寺の修行の作法と行いを叩きつけられます。
旦過寮と修行の心得
旦過寮に入った私は修行の心得を叩きつけられました。
その中でも特に印象に残っていることは下の3つのことです。
- 古参(先輩)和尚さんの目を観るな。
- 目線は立って半畳先の畳の目を観よ。坐っては畳一畳先を観よ。
- 仲間の修行僧には年上でも年下でも同期でも必ず「○○さん」と「さん」付けしなさい。
3番目に関しては一般的には不思議に思われるかもしれません。
しかしこれには
「一日暫く賓主たりとも、終身すなわちこれ仏祖」
(訳)今は仮に師匠と弟子、あるいは先輩と後輩という関係で修行しているが、いつかはお互いに仏祖として拝み拝まれる存在である
衆寮箴規
とお示しにあるように厳しさの中に尊敬と慈悲があふれた言葉なのです。
この言葉は僧堂(修行僧が坐禅するお堂)の入り口の前の版木に書いてあり、僧堂に移動する度に初心に帰る気持ちになる・・・わけもなく。
この言葉の本当の意味に気付いたのは5年ほどたってからでした
とりあえずその時今は永平寺の修行についていくので精一杯でした。
旦過寮で覚えること
旦過寮で覚えるべきことは山ほどあります。
- 振鈴(起床)
- 洗面
- 坐禅
- 朝の勤行
- 小食(朝食)
- 掃除
- 東司(トイレ)
- 昼の勤行
- 中食(昼食)
- 洗面(歯磨き)
- 東司( トイレ)
- 坐禅
- 晩の勤行
- 藥石(晩ご飯)
- 洗面
- 東司(トイレ)
- 坐禅
- 開枕(就寝)
それぞれの行いに作法があり、勤行や食事、洗面などを行う時のお経やお唱えを覚えなくてはなりません。※解説は別の回で説明します。
一週間の研修を終えて、暫到入堂の拝(修行僧の仮採用の儀式)をして、承陽殿(開山堂)、各部署に挨拶回りのお拝を行い、
修行僧の基本的な事を行う寮舎。
永平寺には20程の寮舎(部署)があるが、修行僧も永平寺の運営に関わっており会社のような異動もあります。
その中でも永平寺の基本的な修行ができる寮舎が衆寮です。
その公務(仕事)は主に時を告げる鳴らし物、僧堂(修行僧が坐禅するお堂)の管理、清掃を行います。
永平寺の正式な修行僧(新到和尚といいます)の一員となるには5月の新到掛塔式を待たなくてはなりません。
4月末に永平寺の住職(猊下)から受戒を受け、弟子となり5月に掛塔式という永平寺の修行僧として正式に仲間入りする儀式をした後、暫到→新到に変わり、正式に永平寺の修行僧の仲間入りを果たします。
いわば新入社員とでも言うべきものか?
次回から実際に修行がはじまるとどのような1日のスケジュールになるのか、順を追ってご紹介していきます。
まずは1日のスタートである永平寺の早起きの様子を紹介します。
おまけ:永平寺修行クイズ
(問題)1年目の修行僧が履くスリッパは何色でしょうか?
- 赤
- 黒
- 白
- 茶
- 緑
③白
解説)スリッパの色で役職を見分けることができます。
因みに、①赤は特別な僧侶が宿泊した時履くスリッパ。
②黒は2年目以上の修行僧
④茶は役寮さん(修行僧の指導係。永平寺の運営をする役員。修行僧のOBから選ばれる。)
⑤緑は参拝者が宿泊する時や冬場に履くスリッパとなっています。
履き方は白い線の所に小指をひっかけるとパタパタ音が鳴らずに歩けます。
永平寺に参拝した時に注意して見てください。
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この記事を書いた人
三重県在住の曹洞宗僧侶。
失敗のとらえ方についてよくお話します。
永平寺の修行時代のエピソードを中心にコラムを書いています。
新しく上山した修行僧のこと。まだ、正式に永平寺の修行僧と認められたわけではなく、例えるなら部活で言う仮入部期間。
会社などで研修生、実習生。
最近はインターンと呼ばれていますかね。
「君たちはお客さんだから、ここが嫌なら出ていけばよい。入るもの拒まず、去るもの追わずだから。」よく言われました。
結構残酷な言葉ですが、修行のやる気が無い人は早く決断して別の道を探した方が彼らのためという見解ですかね。