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[第1章]永平寺入門と持ち物検査【大鐵師】

[序章]修行はたのしい!?【大鐵師】

こんにちは、曹洞宗の大鐵です。

さて、ここでクイズです。

永平寺に修行に行く時に持っていく荷物必要ないものは何でしょうか?

永平寺での修行に必要ないものは?
  1. 楽器
  2. 書籍
  3. 数珠
  4. 武具
  5. おやつ

このコラムでは永平寺に初めて修行に上山した時のことをまとめました。

クイズの答えはコラムの最後に書いていますので、読み進めながら考えてみてください。

永平寺での修行に行く前の準備

私は永平寺で修行するまで特に仏教系の大学にも行ってはおらず、一般の大学で普通の学生生活を満喫しておりました。

就職活動もしていなかったので他の学生よりも余計に時間がありました。

しかし、そんな余裕も卒業と同時に吹っ飛ぶことに。

師匠にうながされ、大学卒業後すぐに永平寺の修行に入ることが決まりました。

永平寺での修行準備にあたり、まず髪を丸坊主にしました。

そして上山するにあたり持ってくるようにと指示された道具を揃えましたが、今まで見たことのない法具や法衣が多数あり、とまどうことばかり。

師匠に怒られながら準備しました。

このとき私は準備した道具に名前を書いていませんでした

そのことで後に大変な目に合うのですがそれはまた後で話します。

名前をいただく

修行に入ると名字ではなく名前で呼ばれます。

修行僧の中に同じ名前の人がいると事前に名前の変更を求める連絡があります。

案の定、私の本名はありきたりな「こうし」だったため、変更を求められました。

その時いただいた名前が「大鐵だいてつ」だったのでした。

上山と言ってもいつでも自分の好きなタイミングで上山できるわけではありません

上山の申し込みをすると上山の順番日時を指定されます。

私が上山したのは「13番目」の班で、私を含め9人の仲間がいました。

このように班に分けることで指導係の負担を軽減し、合理的に永平寺の作法を教える事が出来るのです。

網代笠あじろがさを被り、袈裟行李けさごうり、後袈裟行李を首から掛けて着物、衣を上げて、足首に脚絆を巻き、草鞋を履く。

この上山威儀じょうざんいいぎ(服装)が永平寺上山時の伝統の服装です。

永平寺に入る前に地蔵院にて事前準備

永平寺に修行と言ってもいきなり永平寺の門をたたくわけではありません。

先ずは手前にある地蔵院という小さなお堂に参ります。

そこで持ち物検査修行の基本的な作法、心得を学ぶのです。

地蔵院を上がるとまず、修行中に履くスリッパのサイズ選びをします。

それが終わると本堂に荷物を置き、衣の着方をまず教えられます。

そして荷物を広げて持ち物検査に入ります。

荷物と言っても上山時に持参するものは少なく、布団や作務衣、下着の着替え、裁縫道具、筆記用具(黒と赤のボールペンのみ)などは宅配で送り、必要最低限のものだけです。

僧は一衣一鉢の外は財宝を持たず、居所を思はず、衣食を貪らざる間、一向に学道す。「正法眼蔵随聞記」懐奘著

(僧侶はお袈裟1枚と応量器1個のほかは財宝をもたず、住居を考えず、衣食を貪らないから、ひたむきに仏道を学べる。)(筑摩書房刊 水野弥穂子訳)

このように修行には一衣一鉢が基本ですが、一覧にするとこのようになります。

荷物一覧
  • 袈裟行李の中身
    • 応量器(修行僧の個人の食器)
    • お袈裟
    • 坐具(お拝の時下に敷く法具)
    • 血脈(仏弟子の証明書)
    • 龍天軸(修行僧のお守りの小さな掛け軸)
    • 涅槃金(修行中に死亡した時の葬儀代、修行は命がけという現れ) 
  • 後袈裟行李の中身
    • 歯ブラシ
    • 歯磨き粉
    • タオル
    • 洗面手巾(洗面のとき衣が汚れないようにする布)
    • 下着1日分
    • 常備薬(必要な人)
    • 風呂敷
  • 坐蒲ざふ(坐禅のときすわる丸い座布団 睡眠の時枕にもなる)

これだけあれば問題なし。

私が修行のお暇で戻った時、友人にこの事を話すと「ミニマリストみたい。」と言われました。

ミニマリストという言葉を調べてみると、無駄を一切省くモノを最小限にした生活をする人だそうで修業時代を思い出すような懐かしさを感じ共感しました。

意外に世間様もこのような生活を求めているのかなと思います。

しかし、そんな思いを巡らす余裕はこの修行期間にはありません。

持ち物検査

持ち物検査の開始です。

先ほども話しましたが、私は法具や荷物に名前を書くのを忘れていました。

法具や荷物にひとつも名前が書かれていないことを指摘され、その場ですべての持ち物を自分で油性ペンで書くことに。

きれいな字を書く余裕もなく、直前に決まった私の名前「大鐵」を慣れない手つきで書いていますと指導係からせかされヒーヒー言いながら書きました。

荷物点検が始まると、私の荷物の中に爪切り耳かきが入ってるのが見つかってしまいました。

まずそこを指摘され、修行には必要のないものとして没収されました。

他の人達は神社のお守り(永平寺には仏様が各場所にいます)や裁縫道具(宅配便で送るもの)、経本(永平寺で支給されたものを使用するから)、白以外のタオルや下着は没収されておりました。

実はタオルや下着は白以外の色は駄目なのです。

永平寺は修行の場、オシャレをするところではありません

因みに眼鏡にも細かいルールがあって、黒縁のメガネ以外は不可です。

私が修行に行ったころには黒縁のメガネはあまり売られていなかったので、サングラスのレンズを抜き、そこに普通の眼鏡のレンズを入れるという工夫をしなければならなかったのです。

私も黒縁メガネを用意しましたが、実はフレームの裏側が茶色だったのです。

上山前にマジックで黒く塗って対処していましたが、それも指摘され注意を受けました。

ルール違反は少しも許されません

服装はダサくてもいい、修行に集中するため少しのルール違反も見逃さない、これが永平寺の修行の厳しさなのです。

服も髪も無くなった時に一体どこで人間の個性を表現するのか?

そもそも修行するのに個性とは必要なものなのか?

それを問いかけてくれる永平寺でもありました。

私は「眼鏡の黒縁は消えたら黒く塗ります。」ということを条件に買い替えずにすませました。

この荷物点検は朝から始まったと思いますが、気付けば日が暮れておりました。

たぶん、中食(昼ごはん)はいただいたと思いますが、覚えておりません。

東司(トイレ)も夜まで行ってないでしょう。

訳も分からず、私語も厳禁。

喋っていいのはこの4つだけ。

  1. 「はい」
  2. 「いいえ」
  3. 「失礼します。」
  4. 「失礼します。○○ですが○○です。失礼しました。」

これ以外の別の言葉を使うものなら注意を受けます

一回「え。」と言ったばかりに注意を受けて、しばらく説教されたのは今でも鮮明に覚えております。

三進退の作法指導

荷物点検の後は三進退(合掌、叉手しゃしゅ、合掌低頭、お拝、法界定印)の指導でした。

ただ、三進退をすればいいのではありません。

1つ1つ作法が決まっております。

それを注意を受けながら何度も何度も出来るまで繰り返し行いました。

合掌

手の平、指をくっつけて、隙間を空けない。指先は鼻の高さ。手と鼻の間は拳一個分空け、肘を張ります。

合掌

叉手

左手を親指を中に包みグーにする。みぞおちに置いて右手をパーにして左手の上に包むようにかぶせる。立っている時は叉手にする。

叉手

合掌低頭

合掌して、首を曲げずに背筋を伸ばし、腰から曲げる。角度は約60度。

合掌低頭

お拝

額を坐具に当てて、両掌を揃えて上にして耳の上まで挙げる

お拝

法界定印

右の掌の上に左の掌を乗せて卵形を作り、親指を合わせる。

親指はくっつけるのではなく、髪の毛1本分空ける。

坐禅の時、坐っている時(正座)は法界定印にする。

法界定印

その後はお袈裟の着方脱ぎ方衣の略畳みなどを教わり夜も更けていきました。

次の日、13番上山組は永平寺の山門へと上っていきます。

つづく

クイズの答え

コラムの冒頭に永平寺の修行に持っていってはいけないものはどれでしょうか?というクイズを出しました。

  1. 楽器
  2. 書籍
  3. 数珠
  4. 武具
  5. おやつ

正解は・・・すべて必要ありません

この根拠は『衆寮箴規しゅりょうしんぎ』(曹洞宗開祖道元禅師が永平寺で修行の規則を書いたもの)に示されております。

  1. 楽器は「管弦の具・舞楽の器を置くべからず」
  2. 書籍は「俗典および天文地理の書、およそ外道(仏道以外)の経論、詩賦和歌等の巻軸を置くべからず」
  3. 数珠は「数珠を持して 人に向かうはこれ無礼なり」
    ※意外に思うかもしれませんが、音が鳴るものは法具であっても基本的に修行に持ち込めません。
  4. 武具は「弓箭兵仗、刀剣甲冑等の類を置くべからず」
  5. おやつは「酒肉五辛を入るべからず」
    ※おやつ(間食)は決められた時間に決められた場所で皆で行います。個人で所有するのは禁止です。

仏道修行に集中して欲しいという開祖の思いが伝わる書籍ですので皆さんも機会があれば読んでみて下さい。


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