親鸞聖人のご生涯第10章では親鸞聖人が京都に戻られた時期や執筆活動に励まれたご様子を紹介します。
親鸞聖人が京都に戻られた時期
聖人は20年ほど関東で過ごした後、京都へお戻りになりました。
京都に戻られた正確な時期は分かっておりません。
63歳以降で、それほど時間の経っていない時期だろうと考えられています。
親鸞聖人は63歳ごろ、鎌倉幕府の
「
膨大な分量があり「
その一切経を書き写し原本と照らし合わせることを「
上の絵にあるように数名の僧侶でチームを組んで確認していったようです。
できあがった一切経は寺院などに
親鸞聖人が参加したと思われる一切経の
ですから、京都に戻られたのはそれ以降だと思われます。
京都へ戻った理由ははっきりとしません。
ご自身について語ったものがないためです。
ただ、60歳代なかばといえば、当時の平均寿命から考えるとずいぶんご高齢になります。
京都での親鸞聖人のお住まい
『親鸞伝絵』には京都に戻った親鸞聖人のことが次のように書かれています。
聖人(親鸞)故郷に帰りて往事をおもふに、年々歳々夢のごとし、幻のごとし。
親鸞伝絵 第5段より長安 ・洛陽 の棲 も跡 をとどむるにものうしとて、扶風馮翊 ところどころに移住したまひき。
お住まいを転々とされたそうです。
五条西洞院や三条富小路あたりに住んだんじゃ
住まわれた場所がいくつか伝えられています。
ひとつは京都市五条西洞院辺りです。
五条西洞院は現在でも市内の繁華街にほど近い場所になります。
この辺りにしばらく住まわれ、関東から訪れる門弟と面会したようです。
また、ご往生なさった時のお住まいは三条富小路辺りと伝えられています。
お手紙などを見ますと、親鸞聖人は83歳の時に火災に遭われました。
その火災の後にたよったのが弟の
尋有僧都は三条富小路辺りに「
そこに身を寄せられたのでしょう。
善法坊は現在の京都
帰京後の親鸞聖人の執筆活動
関東では遠方まで足を運んで地方の方々へ本願念仏の教えをお伝えした親鸞聖人。
京都に戻られてからは執筆活動に励まれました。
年齢と共に親鸞聖人の著作を並べてみます。
年齢 | 著作 |
---|---|
76歳 | 『浄土和讃 』 『高僧和讃 』 |
78歳 | 『唯信鈔文意 』 |
80歳 | 『浄土文類聚鈔 』 『入出二門偈頌 』 |
83歳 | 『尊号真像銘文 (略本)』 『浄土三経往生文類 (略本)』 『愚禿鈔 』 『皇太子聖徳奉讃 』 |
84歳 | 『如来二種廻向文 』 |
85歳 | 『一念多念文意 』 『浄土三経往生文類 (広本)』 |
86歳 | 『尊号真像銘文 (広本)』『正像末和讃 』 |
このように70歳を超えてから多くのお書物を著わされています。
親鸞聖人の著作といえば『
「
『教行信証』は50歳ごろから書き始められたと考えられています。
ただし、「○歳の時に完成した」とはなかなか言いにくいお書物です。
筆跡などから最晩年まで手を加え続けた様子がうかがえるからです。
75歳の時にお弟子さんに書写を許されていますので一旦の完成は見ておられたと思いますが、生涯をかけてのお仕事として
法然上人のお手紙や先輩方のお書物もたくさん書き写したんじゃよ
ご自身の著作だけでなく、お念仏の先輩方のお書物も精力的に書写されました。
関東の門弟たちとの交流
京都へ戻ってからも関東門弟との交流は続きました。
関東から届くお手紙には丁寧にお返事を書いておられます。
お手紙を通して親鸞聖人に質問し、ご門弟にお返事で答えていく。
書簡を通してのご教化をなさいました。
また、はるばる京都まで訪問するお弟子さんもいたようです。
『
みなさん方がはるばる10余ヶ国の国境をこえて、いのちがけで私(親鸞)の元をお訪ねしてくる志は、ただひとえに浄土往生の本願念仏の道を聞くためです。
歎異抄第2条より 筆者意訳
「10余ヶ国」というのは関東から京都に至る道のりです。
険しい道を徒歩での道中、現代ほど治安が良かったとも思えません。
まさに命がけの道のりであったと想像します。
本願念仏の教えを求める熱意、親鸞聖人を慕う心の深さを感じます。
京都を訪ねるご門弟の中には金品を届ける人もいたようです。
親鸞聖人のお手紙に「御こころざしのもの」「こころざしの銭」を確かに受け取りましたという言葉が出てきます。
関東のお弟子さん方は親鸞聖人へ懇志を届ける。
親鸞聖人は懇志で貴重な紙を買い、お書物を著わしたり書写したりする。
それを関東門弟へ贈る。
このような形で本願念仏の道を共に歩まれたのでしょう。
関東と京都、身体的な距離は離れましたが、心の距離はいつもお側にあったのだろうと想像します。
合掌
さて、親鸞聖人が京都に戻られてから、関東の門弟たちには混乱や動揺がひろがりました。
続いて第11章では関東の混乱の様子と親鸞聖人が息子善鸞を勘当(義絶)した事件を紹介します。
- 『浄土真宗聖典 -註釈版 第二版-』本願寺出版社 2004年
- 『真宗聖典』 東本願寺出版部 1992年 第11刷
- 『真宗史料集成』第1巻 同朋舎出版 1983年
- 『現代の聖典 親鸞書簡集 全四十三通』細川行信・村上宗博・足立幸子著 法蔵館 2002年
- 『歎異抄』金子大榮校注 岩波書店 2004年 第99刷
この記事を書いた人
香川県在住の真宗興正派僧侶。本山布教使。
ゆっくりとやわらかな口調のお話で、お念仏の教えと身近な話題とのつながりがわかりやすいと評判。
鎌倉で一切経の校合に参加したんじゃよ