こんにちは、曹洞宗の大鐵です。
私は7年間永平寺で修行しました。
永平寺の修行はとても厳しいもので、何度も心が折れそうになりました。
というか、折れてましたね。
辛いことをあげると3つでは到底おさまりきらず、ほんとはベスト100ぐらい紹介したいです。
そのぐらい身も心も厳しく鍛えられる期間で、修行期間を通して学んだことも多くありました。
今では感謝していま・・・す(と言っておきます。)
そこで、このコラムでは永平寺の7年間の修行期間に辛いと感じたことのランキングベスト3を紹介します。
第3位 公務中(見習い期間)の廊下の下拭き
第3位は見習い期間中の廊下の下拭きです。
「第3章永平寺の朝は早い」で紹介したように、永平寺の修行僧はいろいろな役職を持ち回りで担当します。
その役職を異動した時は初心に立ち返るために、各部署の見習いからスタートすることになります。
見習い期間のことを公務中と呼び、公務中の最終日には部署の寮長による公務点検(テスト)があり、合格しないと見習い期間は延長となります。
公務中は徹底的に先輩僧侶からシゴカれることになります。
中でもキツかったのが廊下の下拭きです。
廊下の拭き掃除本当にキツイ!
小食(朝食)のあとに堂内の廻廊を掃除する時間があり、雑巾で廊下や柱、窓の棧や手すりをすみずみまで拭き掃除をします。
しかし、見習い期間は廊下の下拭きだけをやらされます。
これが本当にキツイんです。
高さの違うところを拭ければ体勢を変えられるのですが、ずっと床ばかり手で拭き掃除をするのは肉体的にも本当にツラいものでした。
この廊下の下拭きは公務中の僧侶以外にも修行の規則を破った者、坐禅や朝のお勤めで寝ていた者、長期間他出(外出、外泊)していた者などにも割当られます。
要するに、罰則として機能するぐらいツラいのです。
第2位合掌正座
第2位は合掌正座です。
永平寺の公務はすべて規則に従って行われ、その規則の通りに遂行できないと失敗とみなされます。
例えば、鐘を時間通りにつかなかった。
鳴らす回数を間違えた。
鳴らすタイミングを外した。
これらはすべて失敗とされます。
公務に失敗したり、修行態度が悪いと下の画像のように壁に向かって合掌し正座させられました。
時間を計ることはできませんので体感での記憶ですが、だいたい40分~60分くらいですかね。
実際にやってみてもらうとわかるとおもいますが、この姿勢をキープしたまま長時間過ごすのは肩や腕がとてもキツイです。
同率第2位 起床時間の2時間前起き
・・・ランキングをベスト3に絞ろうと思いましたが、辛いことが多すぎて順位を絞りきれません。
同率の第2位として、起床時間の2時間前の早起きもとても辛いものでした。
「第3章永平寺の朝は早い」でも紹介したとおり、修行僧の朝はとても早く始まります。
春秋は4時、冬は4時半、夏は3時半が起床時間です。
しかし、公務中(見習い期間)はさらにその2時間前に起きることになります。
2時間前に起床する役職がいくつかあり、公務中(見習い期間)はその仕事内容も覚えなければなりません。
担当役職者から仕事を教えてもらうことになるのですが、担当者の教え方にも性格があり、優しい人、適当に教える人、厳しい人などいろいろいます。
教える側の役職僧侶にとっても見習い指導は死活問題です。
見習い僧侶に仕事を覚えさせないと、起床時間の2時間前に起きるキツイ担当部署を次の人に交代できません。
なので教える側も必死なのです。
とにかく睡眠時間が少なくなるので疲労がたまり、すべての行動に影響がでます。
第1位 公務帳をノートに書き写す
第1位は公務帳の書き写しです。
各部署には公務帳という仕事の手順や作法を書いたマニュアルのような本があり、それをひたすらノートに写経のように書き写します。
電子機器の取り扱い説明書を書き写して覚えるようなものと思うとわかりやすいでしょうか。
とにかく書き、とにかく全部覚えます。
与えられる時間は1週間だけなので、その間に配置された部署の公務帳を覚えないといけないのです。
最終日には部署の寮長による公務点検(テスト)があり、合格しないと見習い期間は延長になるのでとにかく、必死に書き写しました。
部署異動のたびに書き写し作業が待っている
公務帳は部署ごとにありますから、転属するたびにこの作業が待っています。
例えば、料理を作る大庫院(典座寮)の公務帳には以下のようなことが詳細に書かれています。
これらのマニュアルを1週間の内に覚えるように叩き込まれます。
現代ではコピー機があるのでコピーでも良いのですが、すべて覚える必要があるので結局は手書きで写して覚える以外方法がないという感じです。
これが本当にきつくて辛かったです。
おやつの時間(15時から30分間)、20時から22時までは書き写し作業に使える時間があります。
とはいえ、深夜に起きているうえ翌日の起床時間も迫っているため、体力と眠気の限界を感じながら書き写しと暗記をするというとてもキツイ時間でした。
まとめ
法話でも「修行の厳しさ」は題材としてよく使われます。
特に永平寺での修行は日常生活とはかけ離れた世界に飛び込むもの。
生活様式、規則、常識などが大きく変わり、これまでの生活では感じたことのない厳しさに直面しました。
学校や部活、仕事においても新しい環境に入ったときには右も左もわからず、ジタバタしてしまいますよね。
そのような一般社会の中でさえ環境が変われば厳しさを感じるものですが、それ以上の落差で生活が変化するので私にとっても、とても厳しくツラい時間に感じました。
正直なところ、修行前と後で自分の何かが変わったのかどうか・・・、よくわかりません。
ただ、厳しい状況に身を置くなかで、苦しみを緩和する工夫や智慧を身に着けようという気持ちはとても強くもっていました。
苦しみをそのままにせず、なんとか楽に受け止められるようにする。
それは自分自身を大切にするという工夫だったのかもしれません。
そのような経験から、人の悩み相談を受ける時にはまず相談者の苦しみを緩和することを第一に考えています。
実際に問題解決をすることはできないかもしれませんが、悩みを聞いて少しでも「楽」を感じてくださったらありがたいことだと思います。
この記事を書いた人
三重県在住の曹洞宗僧侶。
失敗のとらえ方についてよくお話します。
永平寺の修行時代のエピソードを中心にコラムを書いています。
など